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今後の環境問題と自動車燃料

2009年03月20日


今日の日本経済新聞に科学ジャーナリストの渡辺雄二先生のコラム記事が掲載されていました。ぜひご覧ください。

バイオガソリンの販売が本格化

(渡辺 雄二=科学ジャーナリスト)

何かと世間を騒がせているバイオ燃料。「CO2削減に効果がある」「穀物の高騰を招く」などと賛否両論が渦巻く中、日本の石油業界はこの4月から、サトウキビなどから生産したエタノール(エチルアルコール)と石油系ガスを合成した燃料「ETBE(エチルターシャリーブチルエーテル)」をガソリンに混ぜたバイオガソリンの販売を本格化する。しかし日本政府は別のタイプのバイオガソリンの普及を目指しており、両者の対立が起こっている。こんな状態でETBEバイオガソリンは普及するのだろうか?
 
ETBEバイオガソリンとは何か

まず、石油業界が普及させようとしているETBEとはどんなものか見ていくことにしよう。
ETBEとは、バイオエタノールと石油精製時にできるイソブチレン(イソブテン)という物質とを反応させて作られる化学物質のことである。ETBEは燃料になるほか、ガソリンに混ぜるとノッキング(エンジンが金属性の打撃音や振動を生じること)が起こりにくくなるという特長がある。そのためフランスやスペインでは、バイオエタノールからETBEを合成して、ガソリンに混ぜて使っている。
ちなみにバイオエタノールとは、トウモロコシ・サトウキビ・小麦・イモ類・果実などから作られたアルコールのことだ。植物に含まれる炭水化物を糖質に分解し、それを微生物を利用して発酵させて得る。飲用に利用されているエタノール(酒)と基本的には同じものだ。糖質に分解できるものであればどんなものでも原料になる。

米国ではトウモロコシからバイオエタノールを生産しており、その影響で食用のトウモロコシが少なくなり、価格の急騰を招いた。また、大豆を生産していた農家がバイオエタノール用のトウモロコシの栽培に切り替えたため、大豆が不足する事態を招いた。そのため食糧からエタノールを生産することには批判が高まっている。最近では食糧以外のもの、たとえば木材や古紙、藻類、廃糖蜜(サトウキビやサトウダイコンの搾りかす)などからもバイオエタノールが生産され始めている。


石油連盟に加盟する新日本石油やジャパンエナジーなどの石油元売り各社は、2007年4月からETBEバイオガソリンの試験販売を開始した。首都圏(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県)の50箇所の給油所で、ETBEを7%混ぜたレギュラーガソリンを売りだしたのだ。EBTEの1リットル当たりの生産コストは、レギュラーガソリンに比べて7~8円高いが(2007年度実績)、政府の補助金と石油業界が負担することで、販売価格はレギュラーガソリンと同じになっている。こうして2007年度は、ETBE混合のガソリンを約10万キロリットル販売した。

 2008年度はガソリンスタンドを100箇所に増やして販売増加を狙ったが、販売量は約14万キロリットル(ETBEは約1万キロリットル含まれる計算になる)程度で、それほど伸びてはいない。その理由の一つは、日本政府との協調関係が作られていないことだ。実は、政府が普及させようとしているのは、ETBE混合ガソリンではないのだ。

石油業界の思惑と政府方針の齟齬


バイオガソリンは日本では主に2タイプある。一つは上段で述べたETBE混合ガソリン。もう一つは「E3」である。これは簡単にいうと、3%のバイオエタノールを直接ガソリンに混ぜたものだ。日本政府は、このE3を普及させようとしている。その理由は後述するが、海外ではこのタイプのバイオガソリンが主流で、バイオエタノールを10%混合した「E10」を始め、ブラジルでは「E20」や「E25」が主流となっている。

バイオエタノールは、カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出と吸収がプラスマイナスゼロ)な燃料である。一方EBTEは化石燃料から作られるイソブチレンを原料にするため、カーボンニュートラルではない。温暖化防止という観点では、バイオエタノールを直接混ぜたE3のほうが、EBTE混合ガソリンよりも優れていることは間違いない。

日本は1997年に採択された京都議定書に批准しており、2012年までに、1990年比で温室効果ガスを6%減らさなければならない。しかし2006年には逆に6.3%増加しており、削減目標を達成するのは困難との見方が強い。環境省としては、少しでも温室効果ガスの排出を減らしたい意向がある。先述の「日本政府は、このE3を普及させようとしている」という理由の一つがこれだ。

環境省がETBEではなく、E3を普及させようとしている理由はほかにもある。まず、ETBEの安全性が十分に確認されていないことだ。ETBEは新規化学物質であり、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)では、第二種監視化学物質の指定を受けている。高い蓄積性はないが、難分解性で、人への長期毒性の疑いを有する化学物質、というわけだ。そのため長期毒性試験や環境への影響などを調べなければならない。

さらに、ETBEは地下水汚染を引き起こすのではないかという懸念もある。1991年、共同石油(現・ジャパンエナジー)は、国内でハイオクガソリンを販売する際に、ノッキングを防ぐ目的で、 ETBEと似た化学物質であるMTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)を添加した。
ところが米国では、老朽化したガソリンタンクからMTBEが漏れ出し、地下水を汚染していることが発覚した。MTBEは水に溶けやすいため、地下に染みこんで深刻な汚染を引き起こしていたのだ。そのため、同国では使用が禁止になった。日本でも地下水汚染が問題となり、環境省が2000年度に全国のガソリンスタンド周辺の地下水196地点を調査したところ、36地点からMTBEが検出された。その後、MTBEの使用は中止された。


しかし石油連盟では、あくまでETBEの普及を進めていく考えである。今年度はETBEを混合したバイオガソリンの使用量を20万キロリットルに拡大し、2010年度には一挙に84万キロリットルに拡大しようとしている。そのため、政府との対立が表面化している。

EBTE混合ガソリンとE3とでは後者がベター

バイオエタノールがそれほど優れた燃料かというと、必ずしもそうではない。原料となる植物を栽培する際には農業機械を動かす化石燃料が必要であるし、収穫や輸送、さらに燃料に転換する際にも化石燃料を使う。また、バイオエタノールをガソリンに混ぜたとしても、燃焼すれば、有害な化学物質が発生する。

しかし今の時点で、EBTE混合ガソリンか、バイオエタノールを直接混ぜたE3かの二者択一を迫られたら、E3がベターなのは間違いないだろう。安全性や環境への影響、二酸化炭素排出量などの点で優れているのは確かだからだ。

こうした点を石油連盟はもう一度考慮し、今の方針を転換すべきなのではないのだろうか。石油元売り各社が、自己の存続を願うのは仕方がないことだとは思う。しかし、温暖化防止に向けて、世界の各企業が、温室効果ガスの削減のために必死に努力しているときに、自己保身のためにいろいろ理屈をつけて、政府の政策を妨害することは許されることではないだろう。

いずれ化石燃料は枯渇し、ガソリンの生産は困難になる時がくる。そうなった時には、再生産可能なバイオ燃料がエネルギーの主流になることは間違いないだろう。石油連盟は、そうした時代を見越して、今こそ事業の転換を図るべきではないのだろうか。

それは、これまで化石燃料から生産したガソリンや軽油などを販売してきた石油元売り会社にとっては、相当な困難をともなうものだろう。しかし、それを断行しなければ、将来に渡って会社が存続していくのは難しいように思う。


渡辺 雄二(わたなべ・ゆうじ)
 科学ジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、1982年からフリーに。その後、月刊誌や週刊誌などに、食品、環境、医療などに関する諸問題を執筆・提起し、現在にいたる。著書に『食品添加物の危険度がわかる事典』『危ない化学物質の避け方』(KKベストセラーズ)、『食べてはいけない添加物 食べてもいい添加物』(だいわ文庫)など多数